【喫茶】名古屋市南区 和美

名古屋市

ひつまぶしの名店「蓬莱軒」も程近い南区内田橋は、名古屋でも指折りの純喫茶の密集地帯だ。ほんの半径数百メートルに10軒近くひしめき、その中には「セブン」さんや「サンセン」さんといった、かの純喫茶コレクションにも取り上げられた店もある。

私はこの内田橋を何年も日常的に通ってきた。勿論この一帯の喫茶店は制覇したつもりでいた。だが、この度長年見落としていたおそらく最後の一軒をその内田橋のたもとで発見した。純喫茶コレクションの著者の難波里奈さんもこの店は見落としたのではないだろうか。

廃業した美容室か何かだと勝手に思っていたが、このステンドグラスでもっと早く気付くべきだった。ある日覗きこめばここは喫茶店「和美」さんだった。 表には喫茶店であることを示す看板が無い。すべて取り払ってしまったとママさんは言う。ここは本物の隠れ家だ。

グリーンのランプが穏やかに控えめに店内を照らす。外からは点いているのかすらよくわからない。そのせいでこの店が「生きている」と気づくのが遅れたが、一たび足を踏み入れればもう帰りたくなる。そういう絶妙な明るさだ。

店内外は緑で彩られ、壁は亥年仕様だ。どちらもやる気のある店のあかしだと勝手に思っている。私が喫茶店をやるとしたらこの二つには手を出せない。

店内には裁縫が得意なママさんの作品が並ぶ。下手の横好きとママさんは謙遜するが、これが作れる女性が現代日本にどれほどいるだろうか。

ママさんが和美さんというのかと思ったら、ママさんはこの店を病気で寝たきりになったお姉さんから引き継いだという。この店は60年前になんと八百屋として始まったのだが、独り身だった姉さんは仕入れの面倒さに辟易して喫茶店に鞍替えをしたそうだ。別の商売から喫茶店に代わるケースは何軒か見たが、八百屋からというのは初めてだ。

60年ということでこの界隈では一番の老舗だが、珈琲は300円という破格値だ。名古屋の喫茶店は350円くらいのところが多く、300円というのは滅多に無い。それもあまりやる気の感じられない店が多い。このくらいやる気のある店で300円というのは貴重だ。

マッチを求めると、家に帰ればあるが店にはないという。来週また来るから、と約束をして私はお店を再訪した。謎のメキシカンがいい味を出しているマッチをママさんは手渡してくれた。

帰り際にふと見ると、目立たないところに一枚だけ看板が残っていた。川風に晒されてかすっかり色あせていて、そうと意識しないと見逃してしまうだろう。この店はGoogleMapにも載らない。それでも店は元気に日曜もやっている。

喫茶店に非日常的なゴージャスさを求める人にはこの店は野暮ったく見えるのかもしれない。だけど私はやれる範囲でベストを尽くして頑張る、飾らないこの店とママさんが好きだ。むしろこういう店を世間に知らしめたくてこのブログをやっているのだ。

喫茶 和美
営業時間:11:30~17:30
月曜定休
(2019年2月訪問)

コメント